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サルベージその1。またの名を貧乏性企画。

この話、FES期間中はご好評をいただけたようで、とても嬉しかったです。
実際、この歳でこの立場でよく頑張ったなぁ…と思います。
無双本編では別に全然そんな感じしなかったけどね!
夫婦に振り回される清正が苦労人気質だということだけはよく伝わった、そんな九州征伐ステージの感想。
あと、私がパパ達に盛大な夢を描いているのが丸分かりですいません。


すっと、何かが動く気配がした。
宗茂は筆を止め、意識を集中する。

やはり、何かが動いた。

時限はもう、子の刻になろうかというところである。
このような時間にする人の気配など、おおよそ真っ当なものではあるまい。
不測の敵襲に備え、爛々と光る見張りの兵どもの目を掻い潜り、ようもここまでたどり着いたものだ。
やや関心しながらも、宗茂は注意深く、音を立てないよう、寝室の障子を僅かばかり開く。
いた。
ほんの四、五間というところだが、庫裏へと伸びる廊下に、人影がある。
衣擦れの音すら立てまいとでもいうのだろうか、驚くほどに注意深く歩を進めるその姿は。

「なんだ、誾千代じゃないか」
哨戒の兵に見咎められないのも道理だ。何せ、今日の哨戒部隊の担当は、誾千代本人である。
大したことのない種明かしに嘆息しながら、どうした、と声をかけた。

すると、ぴん、と音がする勢いで、その背が面白いほどに跳ね上がった
大声は出していないつもりだったが、あちらからすれば、随分な奇襲であったとみえる。
ばっと振り向いた誾千代は、ひどく慌てたように目を見開いていたが、彼女が何事か言う前に、おかしな音が響いた。
それが何であるかを理解した宗茂、に気がついた誾千代が、夜目にもそれと分かるほど狼狽する。
これは、とか、なんだその、と小声ながらも必死に言い募ろうとする誾千代がおかしくて、宗茂は思わず噴きだした。
大体の事情は察せる。
まあ、この時間である。夕餉の時刻を考えれば、腹を空かせたとて、さほどおかしくはない。
それほど慌てることでもあるまいに、と思いつつ、あまりからかっては気の毒だなとも思い直し、笑いながらも小声で呼びかけた。
「こっちへ来い」
いいから、と手招きしてやれば、釈然としないという空気を飛ばしつつも、やはり注意深くはあったが、
誾千代は存外素直に招かれてくれたのだった。

「ご苦労だったな、誾千代」
誾千代を無理矢理机の前に座らせて、ほら、と脇に押しやっていた竹皮の包みを膝に置いてやる。
先だって宗茂が厨房に作らせていた、夜食用の握り飯である。
何ぶん時ゆえ、固くむすばれたそれは小ぶりではあったが、すでに温くなっているとはいえ、空き腹には絶大な効果があるだろう。
誾千代がしぶしぶと包みを開いた途端、香ばしい味噌の香りが広がった。
案の定、それに心が傾いたことを示すように、むう、と今一度唸りながら、誾千代は宗茂を睨んだ。
常の迫力がないのは、夜目のせいか、はたまた彼女の腹の虫のせいであろうか。
「・・・また、このように兵糧を無駄にしおって」
そういうお前は、庫裏に何しに行こうとしていたんだ、とは言わない。
誾千代なりの思慮と矜持と食欲とが、兼ね合いを模索した結果が、あの隠密行動であるのだから、それは尊重すべきである。
「では、俺は罰として土牢行きかな?」
「・・・当主の不届きな行いが知れれば、兵の士気が下がる。不本意ではあるが、隠匿するしかあるまい」
しょうがないから始末してやる、そんな顔をしながら誾千代は、きちんと両手を合わせてから握り飯に手を伸ばした。
そんなおかしな意地が面白くて、宗茂は少し笑った。
握り飯を口に運ぶ彼女の手は、背の低い燭台に照らされて、その白さがはっきりと分かるほどだった。
義父から譲られた、銘ある刀を握りしめるそれは、しかしすんなりとした、年相応の少女の手の甲だ。
「陣立てか」
宗茂の視線を気にする風もなく、誾千代は机に延べられた大判の紙を見やって言った。
その通り、宗茂が最前より取りかかっていたのは、ここ立花山城の、今後の陣立ての考案であった。
「ああ。軍議が短くなるに越したことはないからな」
「ふん。お前にしてはまめなことだ」
そう言いながらも誾千代は、食い入るように図を眺めている。
よほど集中しているのか、口元に残る米粒には全く気がついていない。
まるで餓鬼だな、と思った時、顔を上げずに誾千代が言った。
「松尾方面がわずかに弱い。それとない綻びがあるな」
ふむと一つ頷き、続ける。
「包囲する側は得てして慢心しやすいものだからな。餌をちらつかせて、食いつかねばそれで良し、
食いつけば即座にお前が出向いて叩き、すぐに引く、という判断か?」
同時に私が南方面に出張り、相互に陽動と見せかけて混乱させれば、なお面白い。
機はお前に合わせよう。で、伝令は誰を立てる。
と、誾千代は一息で言って、そこでようやく顔を上げた。
まったく、ただの餓鬼ではない。
さすがは自分と共に、筑前の軍神と呼ばれた男に、兵法の薫陶を受けた者である。

客観的な事実として、兵法に関しては、宗茂には才があった。
それゆえ、同じ機会を共にしたといっても、誰しも己と同じ程度の理解をするわけではないということもまた、宗茂はよく知っていた。
その点、誾千代は少なくとも、自分と同程度には優秀であった。
それがいかに代えがたいことであるか、宗茂は今になって思い知る。
ここ立花山城を包囲する島津軍、約四万。
この状況で、泣き言を言うどころか、平素よりもなお落ち着いた佇まいで、戦支度を整え、軍議に意見し、
兵卒を激励し、注進を聞いて的確に指示を出し、こうして見廻りまでこなす誾千代は、すでにひとかどの将であった。
そういう彼女が妻であるということの価値は、実を言うと、宗茂にはあまり分からない。
しかし、己の分身、己とあらゆるものを共有するものとして見るのであれば、誾千代は宗茂にとって、正しく無二の存在だった。

-名将は、なにゆえ名将たるか。
-答えてみよ、宗茂。誾千代。

自分や誾千代の意思はどうであれ、世間から見れば、名将の子らである、ただそれだけである。
それだけに、この絶望にもにた局面においては、精一杯、父親達の遺した威を、振るわねばならない。
誾千代がこんな遅くまで、城内をくまなく巡り、兵卒を檄して廻るのは、
死してなお家中において絶大な支持を集める父、道雪の模倣である。
立花道雪は生前、平時にすら城を見廻っては、一兵卒にも努めて声をかけ、励ました。
その厚情な名将亡き後も、若年ながらも娘と婿養子が、確かに家風を継いでいる。
であるならば、かつての通り、立花の名の限り、敗れることなどはありはしないと、兵達に知らしめておく必要がある。
加えて、当たり前であるが、誾千代は女である。
健気にも、父より受け継いだ城と家を守ろうと努める、旧主の一粒種の姫君というのは、
自分という夫がいようがいまいが、どうやらひどく世上の同情を買うものらしい。
誾千代はいかにも女という扱いをされることを嫌ったが、それはそれで事実だったから、思うなら思え、という程度には容認した。
そして父、高橋紹運。
岩屋城で己と、兵卒全員の死を持って、宗茂と誾千代に最大の威を遺してくれた父。
事実島津軍は、ここにきて包囲の手が甘くなっているように見えた。
秀吉が遣わした援軍の先鋒が、もうそこまで来ている、という注進もあるのだろうが、何せあの玉砕劇の直後である。
さすがの薩摩隼人も、懼れるまではいかないまでも、あれほどの痛手を再び被りたくないのは真実であろう。

軍神と呼ばれた名将の残した城。
そこで強敵の進行に抗戦するは、軍神の刀を受け継ぎし勇壮なる姫君と、その夫たる、身を持って敵の大軍を阻んだ勇将の息子。
まるで絵巻ような筋書き-それは数多の犠牲の元に築かれた、壮麗であるばかりではないものであったが-は、
立花山城の士気を否応にも上げた。
あの将の子。
その一事がどれほどに敵を怯ませ、味方を鼓舞させるか、宗茂も誾千代も、重々分かっていた。
そうでなくば、圧倒的な兵力に包囲されようこの状況下、死ねと命じられるにも等しい戦に、誰が付き従うというのだろうか。

だからこそ、失敗は許されない。

自分たちは確かに彼らの後継者であり、また、その名に恥じぬ将であると、世に示さねばならない。
それには、生き残る、それではいけないのだ。常人と同じ成果では、意味がない。
勝つ。
誰にもそれと分かる形で、あの将の子として、立派に勝たねばならない。
それは鷹揚と呼ばれて久しい宗茂にすら、生半にはできないという覚悟を持たせるような、厳しい条件であった。
籠城は、それ自体困難である。
寄せ手の圧力に耐える、それだけで精神が磨耗する。
緊張感と閉塞感はよくよく同期するもので、あっという間に士気は阻喪し、脱走や寝返りまでいかずとも、軍全体の動きが鈍る。
それに食料と水の節約という、最たる欲求を満たすものへの節制が加わる。
今はいい。岩屋城の弔い合戦を、という気運は高く、島津軍何するものぞ、といわんばかりである。
しかし、秀吉軍の到着前に、島津が総攻撃を敢行するのであれば。
兵力のその全てで、蟻一匹も漏らさぬ勢いで城攻めをおこなえば。

宗茂はまだ二十歳に満たない。合戦は何度も経験しているが、この大軍相手の籠城戦。
敬愛した父を、どうした経緯があるとも、見殺しに似た形で失った直後で、残る係累は、敵方に捕らえられている。
誾千代は、宗茂よりもなお若い。大人と子供が混在する面差し。
平均からすれば大柄とはいえ、その体は柔らかささえ覗かせる。
このような夜深くまで哨戒に出て、兵を一人一人労い、陣立てを眺めるには、いかな道雪公の娘とて、線が細いのは否めなかった。

それでもなお、瑕一つない勝ちを得ねばならない。
それが、宗茂と誾千代がここにいる意味だった。


-勝てぬといわれる戦を、勝たせる采配をすること。
-否。勝てぬといわれるは、すなわち状況を作る戦にて負けたる証左なり。覆すは天晴れなれど、五分の勝ちは勝ちにあらず。

-勇を持って兵卒を率い、いかなる戦にても、その力を引き出さしむること。
-否。個の勇は将には不要なりて、それを恃むは下策と心得よ。また戦に常などない。兵卒の働きも、また然り。


「誾千代」
誾千代を正面から見据えた。存外に長い睫に覆われた大きな瞳が、しっかりと見返す。
その光は、力強く、静かだ。
「勝つぞ」
だから宗茂も、力強く、静かに言った。

「当たり前だ」
返ってくるのは、己のそれに等しい、清々しい、はっきりとした声。
「お前と私で臨む戦であるならば、それは勝つということだ」

誾千代は嘘を付かない。付けないといった方が正しい。
彼女が返す答えは、真なるもの、それだけである。
それが宗茂にとって、どれほどに心強いかということは、敢えて口にしたことはない。
今はただ、互いが互いにとって、欠けてはならぬことが分かっていればいい。
そう思った。

「ああ」
そうだな、誾千代。
俺たちは、俺たちゆえに、勝つ。


まあその前に、これをどうにかした方がいいだろうな。
そう言って、口元にひっついたままの米粒を取ってやれば、誾千代は白い頬をぱっと紅潮させ、早く言わぬか、と声を荒げた。
それを適当にいないしつつ米粒を口に放りこみながら、宗茂はまた、少し笑った。


-勝たねばならぬ戦を見極め、それにかならず勝ってみせること。
-これをして人は、世に名将とよばわるる。


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全然関係ありませんが、小噺はすべてメモ帳で書いてます。これはひどいローテク。
で、各タイトルも大概ひどい。
ちなみにこれは「ごはんつぶ」でした。ぶちこわしってレベルじゃねーぞ!

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