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残暑お見舞い申し上げます。
暑い毎日が続いておりますね。いかがお過ごしでしょうか。
私は絶賛、頭が沸いております。というわけで、渾身のギャグです。
ってくらいのノリで一つ・・・。


「もう少し離れぬか。近い」
「我侭を言うな。これが精一杯だろう」
「ええい、これでは意味がないではないか!」

常よりも早く、誾千代は己の堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。
といっても、いつもはもう二言三言堪えられるかどうかというところなので、袋の素材や縫製の問題なのだろうか。
と考えたところで、ああ、と一つ頭を振る。
先ほどから、碌な思考が出来ていない。
我が事ながら、鋼のごとくの自制心と名家の当主たる自尊心、ついでに言うなら夫たる宗茂にすら比肩されてはなるまいという向上心を常に心がけているこの立花誾千代が、あろうことか、このような無様な姿を晒すはずなど、常ならばあり得ない。

それもこれも、このいつ終わるともしれない残暑と、宗茂のせいである。

そうだ。
半刻かけて侍女連に探しまわらせた、この伏見の屋敷内では一番大きな盥を縁側に置き、水をなみなみと張ったところに素足を突っ込もうとした、まさにその瞬間に宗茂が居合わせた結果、当主二人が真昼間から素足を晒しながら盥を囲んで涼を取りつつ口喧嘩、という状況など、あり得るはずはないのだ。
故に、責は全てこの陽気と宗茂にあるのであって、それは糾弾されるに足る事由である。
まったくいつも、この男ときたら、手のかかる。

「それよりお前、政務はどうした」
「この暑さではな。捗る方がどうかしている」
「ほう。では、そのままどうかしろ。民のためだ、感涙して喜べ」
「そう当たるな」

体温が上がるぞ、と笑った宗茂の息が思ったより近くまで届くのに、誾千代は思わず肩を竦めた。

井戸から汲んだばかりの水はひんやりと気持ちよく、中庭の軒先は、無風に倦んだ気だるい午後の暑さをやり過ごすには最適の場だ。
しかし何ぶん、直径が四尺あるやなしやといった盥である。
体だけは充分に育った自分たち-幼少時ならいざ知らず、今の宗茂より大柄の男を見た回数は片手で足りたし、自分より大きな女性を見たことも、また同様であった-が悠々足を延べるには、どうしても無理があった。
自然、距離を寄せる結果になる。
折角の涼みのひと時を、他人、よりにもよって宗茂とひっつくなどという、非効率的にも程があることになるのは甚だ不本意だったので、先ほどからあからさまな言葉で攻撃しているのだが、どうにも効果が薄い。
幼馴染ゆえの慣れであろうか、昔はそれなりにやりこめることもあったというのに、近年はのらりくらりとやり過ごされては不戦敗という、誾千代には面白くない日々が続いている。

その上最近は、ひどく厄介な攻撃方法で、この男は誾千代に反撃してくるようになった。

「お前が馬鹿真面目だからな、ちょうどいいのさ」
そういって宗茂は戯れに、ちょい、と誾千代の足指に己のそれを絡めてくる。
節くれだった親指が甲をなぞり、器用に横に滑ったかと思うと、くっきりと浮き出た踝の骨をすいと掠めた。
その感覚に、ぞわりと震える。
どちらかというと、気味が悪いとか悪寒が走るとかいったものに近いその感覚に眉を顰めながら、全くこの男は、達者な口もさることながら、時折おかしな方法で黙らせにくるのはどうにかならないかと思う。

宗茂は最近、時にこんな、変に艶めいた仕草でからかってきては、誾千代の頭の回転を止めて、口を閉ざさせる作戦に出るのだ。
子供の頃は、そんなことはなかった。
名目ばかりの婚儀を上げた頃にだって、こんな術を持っているなど分からなかった。
いつの間に、こんなやり方を覚えたというのだ。
「どうした、呆けて」
掠れる語尾の、ぞっとするような低さ。
宗茂の肌の熱。近くに感じると、頭に変な熱が上がってくる。
絡められる足指は、自分のそれよりずっと大きくて硬い。

思考がまとまらない。

それもこれも、この陽気のせいなのだ。
そして、涼を取ろうとしたら傲然と邪魔をしてくれた、この男のせいなのだ。この、男の。

「誾千代」
ああもう、あつい。


「ええい、鬱陶しい!!」


一喝、思い切り左足を中空へと振り上げた。

ぱしゃり、と小気味良く振り仰ぐ、その音。

足首に纏わりつくように大きな一波が空に舞い、そこから大小の水晶玉にも似た飛沫が、四方八方に広がって、日を透かし、きらきらと輝き瞬いて弾け跳んだ。

そして。
女としては随分な長身の、しかも度重なる戦で鍛えたこの脚は、見事、宗茂の顔面までしっかりと飛沫を跳ね上げてくれた。
もちろん、狙ってやったのだから、これほど気味のいいものはない。
何よりその顔。
突然のことで拍子抜けしたのだろうか、その間の抜けた顔!
我が足が上げた輝かしき武勲に、ふふん、と口の端だけで笑ってやると、宗茂もさるもの、年頃の女ならまあ絆されるだろうな、というくらいには評価しなくもない端正な笑顔を作って、誾千代、と囁いた。
それに続く言葉はおよそ、睦言には聞こえなかったが。


「家臣たちの小言は、並んで聞いてもらおうか」


 

---どうやら、夢中になってしまっていたようだ。
それもこれも、この陽気と、いざ本気になれば遊びだろうが何だろうが、構わず本気になる宗茂が悪い。

「お、お前ら…!真昼間っから何やって・・・・!!!」

一体、いつからそこにいたのか。
勢い込んだ蹴りの応酬の末、ついに盥を引っくり返し、互いの下半身をずぶ濡れにした上、袴の裾やら小袖の袷やらが盛大に捲れるのも構わずに、取っ組み合っいの喧嘩を演じた結果、ついに縁側に誾千代を押し倒して慢心した宗茂に対し、柔軟性を生かして両膝で宗茂の首を締めつつ、踵で背を蹴るという反撃に出た誾千代、という状況を見た清正は、そう言ったが最後、かっと耳まで赤くした途端に俯いて、それきり固まってしまった。
案内してきた近侍の者も、ひっと顔色を赤くしたり青くしたり、こちらは全身から「逃げ出したい」という気配を放っている。

ふむ、と誾千代は横になった格好ままで考える。
確かに、これは名誉ある立花家の当主の姿としては、まったくあるまじき姿である。
童同然の取っ組み合いなど、いかに共に親しい友人といえど、客人に晒してよいものではない。
立花として、礼を失する態度であった。素直に反省すべきである。
宗茂にも、あとでよく言って聞かせねばなるまい。

絡めていた腿を解き、どけ、と命じれば、ちょうど覆いかぶさる形になっていた宗茂は、ちょっと曖昧な表情をしたあと、勿体無いが仕方がない、と嘯いた。
・・・一体、何が勿体無い、というのだろう。
「目の前の勝ちが、とでも言いたいのか?」
「そうだといえば、そうなるかな」
その後に続いた、据え膳がどうとかと早口で何事か呟いたのを訝しんだのが分かったのだろう。
宗茂は口の端だけで、誾千代に小憎たらしく笑ってみせた。

「ま、いつでも俺が勝つしな」
それは先ほど見せた、変に婀娜っぽい雰囲気などまるでなく、誾千代には馴染みの深い、餓鬼そのものの顔だった。

まったくこの男の性質の悪さは、この陽気以上に、手に負えない。

 

付。

清正のあまりの顔の赤さに、熱気に当たったのだろうかと気を揉んだのだが。

「どうした清正、混じってみるか?」
「いっぺん地獄を見て来いこの助平!!!」

宗茂の、よくは分からないが人の悪さだけは存分に伝わる問いに、即座に返した怒鳴り声は非常に大きかったので、多少、安心した。


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餓鬼だな。主に嫁が。
清正が常にオチ要因ですいません。すごい好き・・・ですよ・・・?(説得力皆無)

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