こういうところが折り合いつけ辛くて難しい・・・功夫が足りません。
テーマ:みんな違って、みんないい。(金子みす〇゛)
俺とお前とお前は同期の桜。
本人達以外の価値観で量る立花夫婦っていうのは、もっと色々書いてみたいと思うテーマです。
と、言うだけは言う。
そこな御仁、しばし、しばし待たれよ。
筑前柳川城主、立花宗茂殿とお見受けいたしまするが、いかがか。
急に相済みませぬ、改めまして、ご挨拶申し上げる。
某は信州上田の真田安房守が次男、幸村と申す者。
見れば御館への帰途かと存じましたゆえ、よろしければ某もご随行したく、無礼ながらもお声かけいたしました次第でございます。
ええ。ええ。
かねてより、貴殿とは一度、お話をしてみたいと思っておりましたゆえ。
…は。口調、でございますか。
いえ、某は永禄の…。ああ、そうでしたか。それはまた、奇遇でございますね。
ええ、では、お言葉に甘えて。そうおっしゃっていただけますと、私も助かります。
小田原の陣の折には、立花家では奥方さまもご出陣あそばされ、揃って武勲を挙げられたとか。
私は上野の陣にありましたゆえ、何ぶん人づてではございますが、そのご武功、聞き及んでおりまする。
立花殿も奥方さまも、雷神とも謳われた道雪公の後継者として相応しい、それは見事な戦をされていたと。
鎮西より遠く離れた信州にても、道雪公はまこと将たるものの理想なるべしと、ご高名は鳴り響いておりますゆえ、ぜひ拝見したかったものをと、口惜しく思っておりました。
道雪公は老齢になられてもなお、その忠節を持って、陣にて没されたとお伺いしておりまする。
もののふにとって、陣のうちに死するというのは、わけても難しく、ゆえに尊きものでござります。
聞けば奥方さまは、道雪公よりの宝刀を振るわれるのだとか。
女子に身にても、偉大なる父御の誇りを掲げて陣頭に立たれるその心栄え、まこと、もののふのとして立派なりと感服いたします。
されど、もののふとは、修羅の道。
もののふの業の、まことの姿というものは。
数多の生を絶ち、また己の生をも絶つことで、名を上げ、威を保ち、新たな生を繋ぐことでございます。
それを修羅といわずに、何と申しましょう。
されど、乱世のただ中に生まれたものにとって、その生のうちに選びうる道の、一つであることには違いありますまい。
誰かを生かすためには、命を捨てる覚悟ではないとできないのだと。
命を捨てるからこそ、次に繋がる道があるのだと。次に示せる道があるのだと。
偉大なる先達は、私共に指し示してくださいます。
そして私は常々、その業を果たす命でありたいと、願っているのです。
無論、それが何者にとっても正しいと、私は思いません。
ただ誰しもが、己の正義とするところは己のみが許すところでありますゆえに。
実際私など、友に嘆息されるばかりでございます。
もう少し世に馴染め、器用になれと、そればかり。
ははは。・・・ええ、まったく。
しかし結局、それができないからこそ、もののふの生に行き着くのだと思います。
何も手元に持たず、言葉も行いも拙いものは、ただ愚直に、命を張るばかりが己の全てありますゆえ。
その先に誰かが生きていてくれるのであれば、まさに本懐と申せましょう。
それが大切な方であれば、どれほどの喜びとなりますでしょうか。
…はは、そうですね。
もののふとは、ぜんたい、生きにくいものでありまするな。
とても、お薦めはいたしませぬ。ははは。
ああ、もうこの辻まできてしまいましたか。私ばかりお話してしまい、申し訳ございませなんだ。
ええ。ええ、また、ぜひとも。
同年のよしみと思し召して、どうぞ、これからも良しなに。
それでは、私はこれにて。
奥方さまにもどうぞ、よろしくお伝え下さい。
お二人とも、どうか末長く、偉大なるもののふたちが伝え遺せし道として、ご壮健であられますように。
そこな男、しばし待て。
ええい、そこもとぞ、立花の。
・・・なんぞ、この眼帯を何と見るか。ふん、世上の口に上る独眼の人間なぞ、この奥州王の他に、そういてなるものかよ。
いやなに、一度おぬしとは話してみたいとは思っていたのでな。聞けば、同年であるというではないか。
どのような輩かと思っておったのだが。・・・ふむ、ま、押しの強い風体ではあるな。
いや、結構結構。何事も、ふてぶてしいくらいがちょうどよかろうよ。
小田原の頃より、折あらばとは思っておったのが、わしとてそう、暇な身でもないゆえな。
互いに国許が奥州と鎮西ともなれば、中々機が巡って来なんだわ。
ちょうどよい、屋敷にどうせ同じ方角であろうて。
・・・なんだその顔は。奥州の王として、政の中心である伏見の地理に明るくなくてどうする。名のある者の屋敷なぞ、端から頭の中に入っておるに決まっておろう。
まったく。見くびるでないわ、馬鹿めが。
おぬし、聞けば、九州御陣からも随分な活躍であったそうではないか。鎮西剛勇一とはまた、大きく出たものよ。ま、あの太閤どのらしい評ではあるが。
片田舎の奥州まで、おぬしの名がちらほらと聞こえよる。
とはいえ、それにも増して有名なのが、おぬしの奥の活躍ぶりなのだがな。
聞けば、大層な美貌を泡に帰すような、家宝の刀を振り回し、男顔負けの怒号で陣中を震え上がらせる女丈夫だそうではないか。
ま、噂というものは得てして―特に相手が貴賓の女子ともなれば―尾ひれが付くものだが・・・ふふん、その様子ではそう的外れでもない、といったところか。
はははは、鎮西一も剛勇一も兼ねた奥とな。これはいい、果報者であることよな。ははははは。
いやなに、揶揄だけではないぞ。
ああいう手合いは、色々と難しかろうと思ってな。
そも、女子は強い、男よりもよっぽどな。何となれば、肝のすわりかたが違っておる。
そうでなくば、子など産むなどという大事は成せんのかもしれん。
…そうやって産んだ子すら、手にかける強さすらあるのだ、女は。
覚悟を決めたら、男などよりずっと立派にやり遂げおる。
だからこそ、表に立つ女は、危うい。
情は強い、そのくせ翳がない。
一途で迷いないゆえ強く見えるが、ひとたび道を失えば、見境なしに崩れだす。
なまじ頭が切れて矜持があるゆえ、手を出そうとすれば強情に拒み、そのくせ離れると、情の多さゆえに萎れるように儚くなる。
うん?・・・まあ、誰の話でもよいではないか。
とにかく、女子というのは悉皆、難しいものだということだ。
そういうものであるからして、あれの手を放してはならんぞ。
もう二度と、己を生かすために死ぬ人間を見たくなければな。
…おぬしらの経緯も、掻い摘んで聞いておるゆえな。説教とも節介とも思って聞けばよいわ。
誰かの死の先に生があるというのなら、遺されたものはさらなる先を歩むという、途方もない責を果たさねばならぬ。
その荷は重い。されど、逃れることは許されない。おぬしらも、先刻承知であろうがな。
しかしまた、そうやって生かされたものは、己が生かされた経験ゆえに、同じ方途で道を作ろうとする。
それが誰にも称えられる、素晴らしい方途であると、身を持って知っておるからな。
それが一番に恐ろしい。
無論、遺されるものにとって、ということだ。
情は、時に人を、嬉々として死地に向かわせよるからな。
されどまた、どれほどの屈辱にも窮地にも生きようとするも、情ゆえよ。
誰しも何をも贖わずに生きてゆくことが出来ないというのなら、それほどに強くあらねば、どうして死の先を見据えることができようと。
その強さもまた、情あるものに生かされるという荷の重さが、成さすのでろうな。
親であるも子であるも夫婦であるも、いかに情とは厄介なものよ。
ゆめ、気をつけねばならぬわな。
・・・おお、もうこんなところまで来ておったか。
ま、また折を見て、な。
我らはまだ若い。そう急くこともないわ。見たところ、おぬしは存外、生き汚い相をしておるゆえな。
ははは、なに、乱世にては一番の褒め言葉よ。はははは。
では、失礼する。
奥にも、よろしく伝えおけ。
おぬしら二人が、負う荷を下ろすその最期まで共にあれるよう、壮健にな。
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遺していく人と遺される人とでは、結局後者が損をするという話。違うか。