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絶賛放置プレイ中で申し訳ありません。
というわけでリハビリ的な小噺です。やまなしおちなしいみなしクオリティですみません…orz
 


目に映るものは、ことごとく青い。
障子窓から射す光は、それと分かるか否かというほど微かなもので、それは今が夜と朝とのあわいにあることを、宗茂に教えていた。
その視界の只中に、誾千代がいる。
伏したままの宗茂に背を向け、この冷え冷えとした部屋の外を望むようにして、正座をしていた。
だから宗茂に見えるのは、夜着の裾のわずかな隙間から覗く綺麗に揃えられた足指の爪先、剣を握る故に並みの女性よりも遥かに強く大地を踏みしめる足裏の肉の厚さ、それでいて柔らかな姿を失わない踵の曲線、その先にある丸い骨の形を確かに主張する踝と、想像よりもずっとしなやかでほっそりとした足首だけだった。

惹かれるように掻巻から指先を出す。外の空気の冷たさに直に触れ、思わず震えた。
たどり着いた彼女の体、白絹の裾から小さく覗く踝を、緩くなぞりながら呟く。
誾千代もまた、僅かに震える。
一体何を見ていたのかは知らないが、今まさに宗茂の存在に気がついたとも言わんばかりのその反応が気に食わないので、何度もなぞってやった。
ゆるりと踵を包み込み、優雅にくぼんだ土踏まずの曲線を辿り、足指に人差し指と中指を絡めて、そうして何度も、何度も。
そうして触れた箇所が摺れて熱を持つと、それがひどく恋しいような気持ちになって、宗茂はただひたすらに、彼女の足を撫で続けた。

―どれほどに、そうしていたのだろう。
「どうした」
ふっと、誾千代は小さく笑った。微かに湿った吐息が広がる。
首を小さく捻って見上げると、薄青の中で、微かな逆光に彩られた誾千代の顔がある。
はっきりと、笑っているわけではない。ただ目を弓なりに細め、口の端を微かに綻ばせただけの、小さな微笑。
(ああ)
つい数刻前、互いの体を絡ませていた時にはまるで感じなかったもの、敢えて言葉にするなら畏怖のような感情に、喉の奥が戦慄いた。

誾千代は、美しい女だった。

「誾千代」
俄かに体を起こす。
そうして座したままの彼女の肩を引き寄せ、力の限りに抱きしめた。
誾千代は少し驚いたようだったが、すぐに力を抜いて、体を委ねてきた。宗茂の胸元で空気が小さく揺れて、どうした、ともう一度囁かれたのが分かったが、宗茂は答えなかった。
抱き寄せた誾千代の体は温かかった。
こんな寒い空気の只中にあって、誾千代の体はそれでもなお確かな温かさがあった。
それが訳もなくかけがえなく尊く美しく、同じくらい悲しかった。

生あるものは、みな美しい。
そして美しいものは、みな孤独だ。

誾千代は美しいゆえに、最後にはきっと、ただ孤独に生きて死ぬのだろう。
そして、彼女ほどには美しくないであろう自分もまた。
それはどれほどに言葉を尽くしても変わらない、世の真実であると宗茂は思う。
誰も皆一人では生きてゆけないが、何ゆえにと問えば、生のまことは孤独であるからだ。
孤独に耐えられないから寄り添う。
寄り添うことで、孤独のうちに果てることを時に忘れ、時に確かめ合いながら生きている。
けれど今ここにあるこのぬくもりは、たとえほんのひと時であろうとも、生きてゆく孤独を忘れさせてくれる気がした。

それは、共に生きる者を得た人間に与えられたかけがえのない喜びであり、同時に、失うことの大きさを身をもって味わわねばならぬ悲しみでもあった。

抱きしめたそばから、誾千代の熱は染み入るように宗茂の冷えた体に広がり、やがて同化し溶け出してゆくかのように、ゆるゆると温くなる。
決して一つにはなれないと知っているくせに、その感覚は宗茂を柔らかく包んでは、錯覚させるのだ。

泣きそうだ、と思った。

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書いている人が弱っていると、キャラまで弱るという典型例ですね!(…)

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